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広島高等裁判所 昭和59年(行コ)1号 判決 1985年9月30日

山口県徳山市楠木2丁目15番35号

控訴人

前田電設株式会社

右代表者代表取締役

前田勇雄

右代理人支配人

谷村健一

右訴訟代理人弁護士

飯村佳夫

水野武夫

田原睦夫

栗原良扶

尾崎雅俊

増市徹

同県同市今宿町2丁目35番地

被控訴人

徳山税務署長 兼定典夫

右指定代理人

八木良一

外4名

右当事者間の法人税更正処分取消等請求控訴事件について,当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一申立

一  控訴人

1  原判決を取消す。

2  被控訴人が昭和57年9月30日付「法人税額等の更正通知書及び加算税の賦課決定通知書」3通をもって,控訴人の同54年4月1日から同55年3月31日まで,同年4月1日から同56年3月31日まで及び同年4月1日から同57年3月31日までの各事業年度の法人税についてなした各更正処分並びに賦課決定処分を,いずれも取り消す。

3  訴訟費用は第一,二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文と同旨

第二主張

次のとおり訂正補足するほか,原判決の事実摘示のとおりであるから,それを引用する。

一  原判決2枚目裏1,2行目の「昭和54年ないし同56年の各年度」を「昭和54年4月1日から同55年3月31日まで,同年4月1日から同56年3月31日まで及び同年4月1日から同57年3月31日までの各事業年度(以下それぞれ昭和54年度,昭和55年度,昭和56年度という。)」と改め,同末行の「賞与」の次に「(以下本件賞与という。)」を加える。

二  原判決4枚目表10行目の「主張のうち,」の次に「控訴人の昭和54年ないし56年度分法人税に関する更正処分の経緯がそれぞれ別表(二)ないし(四)記載のとおりであること,控訴人が訴外初世,同邦夫,同一男に対し別表(五)記載のとおり賞与を支給していること,控訴人の株主構成(昭和55年8月27日,有限会社から株式会社に組織変更前は出資者の構成)が別表(六)記載のとおりであり,控訴人代表者前田勇雄及び法人税法施行令4条1項1号に定める同人の親族が所有する株式(前記組織変更前は出資分)が発行済株式の95%(組織変更前は出資の全部)を占めていること,控訴人は法人税法2条10号に定める同族会社であるが,訴外初世及び同邦夫は,同族会社判定の基となった持株割合(前記組織変更前は出資持分割合)が50%を超える第一順位株主グループに属し,かつ各自5%を超える株式(組織変更前は出資持分)を所有していることは認める。」を挿入する。

三  原判決5枚目裏4行目の冒頭から6枚目表4行目の末尾までを次のとおり改める。

「(二) 法人税法施行令71条1項3号4号の各規定は法律の委任する範囲以外の事項を定めたものである点で無効であり,この無効な法令を適用して本件賞与を損金不算入とすることは違法である。

(1)  法人税法35条5項が使用人兼務役員とならない役員として規定している「その他政令で定めるもの」とは,憲法84条の規定する租税法律主義の見地からして「社長,理事長と同等又はこれに準ずべきもの」に限られるというべく,具体的にいうと,法人の代表権又は表見代表権を有し,その者の職務の執行が使用人としての職務執行とはみられないものに限られるというべきである。

(2)  しかして,法人税法施行令71条1項3号が規定する監査役及び4号が規定する同族判定株主は,そのこと自体ではいずれも法人の代表権も業務執行権も有せず,また当該法人の経営を支配しない点で,法人税法35条5項が規定している使用人兼務役員とならない役員とは本質的に異なるものである。

(3)  法人税法施行令71条1項3号4号の規定は,法律が政令に委任した趣旨とは関係なく,全く別異の政策的見地から制定されたものであり,無効である。

(三) 控訴人が訴外初世,同邦夫,同一男に支給した本件賞与は,同人らの使用人としての職務の対価としての実質を有するから,控訴人の所得額の計算上,当然損金に算入されるべきである。

すなわち,これら3人は控訴人の役員としての肩書を有するものの,それらは全く名目だけのものであり,役員として控訴人の経営に従事したことは一切なかった。しかして,これら3人は,控訴人代表取締役前田勇雄の指揮監督のもとに,その補助者として,他の使用人の職務内容と同質な職務に常時従事していた。

本件賞与は,これら3人が使用人として従事した職務の対価として支給されたものであり,その支給時期は他の使用人に対する賞与の支給時期と同時であるし,また金額も他の使用人に対して支給した金額に照らし,使用人としての職務に対する賞与として相当と認められる額であった。

したがって,本件賞与は,その実体に照らし,いずれも法人税法35条2項にいう使用人兼務役員に対する賞与として,損金に計上されるべきである。

(四) 訴外一男を控訴人の監査役に選任した行為は法令違反として無効であることにより,昭和54年度ないし56年度を通じて,同人は監査役の地位になかった。したがって,訴外一男に支給した本件賞与は,使用人賞与として,損金に算入されるべきである。

(1)  一般に,商法276条(有限会社法34条の規定により有限会社に準用)の規定する兼職禁止に違反した場合のうち,監査役の選任・任命行為が,明らかに取締役または使用人の地位職務との兼任兼務を行わせる意図でなされたときは,その選任決議ないし任命行為は無効である。

(2)  訴外一男は,訴外前田勇雄が個人企業として電気通信工事業を営んでいたときから,勇雄の使用人としての職務に従事し,この個人企業を法人成りさせて控訴人(但し前田電設有限会社)が設立された際には,従前の使用人としての地位を引き継いで控訴人に採用されるとともに,同時にその監査役に任ぜられ,その後も専ら使用人としての職務に従事し,実質的にも,同人が使用人としての職務を行わなければ,控訴人の存続は不可能であった。さらに,控訴人が現在の株式会社に組織変更した際,訴外一男を監査役に選任したのも,前同様,同人に従前からの使用人の地位を兼務させる意図でなされた。

(3)  したがって,控訴人が訴外一男を監査役に任命選任した行為はすべて無効であり,同人は監査役ではなかった。

四  原判決添付の別表(三)の「2更生」とあるのを「2更正」と,同表(五)賞与支給状況表中,前田初世の昭和55年度の計が「580,000」とあるのを「585,000」と各改める。

第三証拠

原審記録中の書証目録記載のとおりである。

理由

一  請求原因1の事実,同2のうち本件各更正と各決定が違法であるとの点以外の事実,及び被控訴人の主張事実のうち,控訴人の昭和54年度ないし同56年度分法人税に関する更正処分の経緯がそれぞれ原判決添付の別表(二)ないし(四)記載のとおりであること,控訴人が訴外初世,同邦夫,同一男に対し原判決添付の別表(五)記載のとおり本件賞与を支給していること,控訴人の株主構成(昭和55年8月27日株式会社に組織変更前は出資者の構成)は原判決添付の別表(六)記載のとおりであり,控訴人代表者前田勇雄及び法人税法施行令4条1項1号に定める同人の親族が所有する株式(前記組織変更前は出資持分)が発行済株式の95%(組織変更前は出資の全部)を占めていること,控訴人は法人税法2条10号に定める同族会社であるところ,訴外初世及び同邦夫は,同族会社判定の基となった持株割合(前記組織変更前は出資持分割合)が50%を超える第一順位株主グループに属し,かつ各自が5%を超える株式(組織変更前は出資持分)を所有していることは当事者間に争いがない。

そうすると,昭和54年度ないし同56年度を通じて,訴外初世,同邦夫は,控訴人の取締役であるとともに,法人税法施行令71条1項4号規定の同族判定株主であるから,また訴外一男は控訴人の監査役に選任されていたものであるから同施行令71条1項3号により,いずれも法人税法35条5項の括弧書きで,使用人兼務役員となれない役員に該当することとなる。

二  そこで,控訴人の主張につき検討する。

1  控訴人の主張(一)について

当裁判所も,法人税法35条4項5項の規定及び同法施行令71条1項3号4号の規定は,憲法14条1項,29条1項,2項,30条に違反しないと判断するものであり,その理由は,原判決の理由の判示(原判決7枚目裏9行目から11枚目裏7行目まで)と同様であるから(但し原判決10枚目表7行目の「利得処分」を「利益処分」と,同末行の「課せられるのは当然である」を「課せられても二重課税であるということはできない」と,11枚目表末行の「依極」を「依拠」とそれぞれ改める。),これを引用する。

2  控訴人の主張(二)について

控訴人は,法人税法35条5項括弧書きで,使用人兼務役員となれない役員の範囲を政令で定めることを委任したのは,社長,理事長と同等又はこれに準ずるもの,具体的には法人の代表権又は表見代表権を有し,その者の職務の執行が使用人としての職務執行とはみられないものに制限する趣旨であると主張しているが,そのように制限的に解すべきではない。

まず,株式会社及び有限会社の監査役は,使用人としての職務を兼務し得ないから(商法276条,有限会社法34条),法律上使用人兼務の監査役となり得ないことは明らかであって,法人税法施行令71条1項3号は,当然のことを規定したにすぎず,同号の規定をもって,法人税法35条5項括弧書きの委任の範囲を超えたものとすることはできない。

また同族会社の役員のうち同族判定株主たる役員は,たとえ使用人としての職務に従事する場合であっても,一般に自己及びその同族関係者の持株を通じていつでも会社の経営や経理に支配を及ぼし得る地位にあるから,その者に対する賞与を経営者たる地位にある業務執行担当役員に対する賞与と同視することは,法人税課税の公平を図る見地から首肯し得ることであって,同族判定株主たる役員を使用人兼務役員から除外した法人税法施行令71条1項4号,2項の規定の根拠には十分な合理性があるから,その規定をもって法人税法35条5項の括弧書きによる政令委任の範囲を逸脱したものとはいえない。

したがって,控訴人の主張(二)は採用できない。

3  控訴人の主張(三)について

控訴人は,控訴人が訴外初世,同邦夫,同一男に支給した本件賞与は,これら3人の職務の実態,賞与の支給時期及び支給額からみて,実質上法人税法35条2項にいう使用人兼務役員に対する賞与として損金に計上されるべきものであると主張している。

しかし,訴外初世,同邦夫は,取締役,訴外一男は監査役としていずれも控訴人の役員たる地位にあり,しかも法人税法施行令71条1項4号,2項による同族判定株主であるところ,その規定が法人税法35条5項括弧書きによる政令委任の範囲を超えておらず,適法であることは前述のとおりであるし,また訴外一男は本来使用人と両立しない監査役の地位にあったのであるから,前記3名の者の職務の実態,賞与の支給時期及び金額が他の使用人と異ならないものであっても,本件賞与を使用人兼務役員に対する賞与とみることはできない。

4  控訴人の主張(四)について

株式会社及び有限会社においては,監査役の使用人兼任が禁止されているが(商法276条,有限会社法34条),これは監査役と使用人とがその役割の性質上相容れないものがあるからであって,その禁止に反しても兼務監査役が監査役としてした行為の効力が当然無効となるものでないと解するのが相当であるのみならず,監査役が現実に使用人としての業務に従事していても,さらには使用人の地位を保持させたままで監査役に就任させるべく監査役に選任したことで,その選任が無効とされる場合であっても,現実に監査役の肩書のある者に対して賞与が支給されている以上,法人所得の計算上監査役に対する賞与と評価するのが相当である。これを本件についていえば,控訴人は,訴外一男には監査役に選任後も使用人としての職務に従事させることを意図していたから,その選任は無効であるというが,仮にそうであっても,訴外一男は本件賞与の支給時においては監査役の肩書を有していたのであるから,法人所得の計算上はこの賞与は監査役に対する賞与とみるほかない。

しかも訴外一男については,次のとおり監査役としての選任が無効であると解するのは相当でない。

成立に争いがない乙第2号証の3,第3号証の3によると控訴人は当初昭和53年4月1日に有限会社として設立されたことが認められ,その後昭和55年8月27日株式会社に組織変更されたことは当事者間に争いがないところ,有限会社にあっては,監査役は任意機関であって必須機関ではないが(有限会社法33条1項),成立に争いがない乙第2号証の2によると,組織変更前の控訴人は定款で監査役1名を置く旨定めていたことが認められるから,少なくとも1名の監査役が必要であったし,また株式会社にあっては,監査役は必要かつ,常置の機関であり(商法280条,254条1項),また成立に争いがない乙第3号証の2によると,組織変更後の控訴人は,定款で監査役は2名以内とする旨定めていることが認められるから,有限会社であった当時と同様少なくとも1名の監査役が必要であることになる。ところで前掲乙第2号証の2,3,第3号証の2,3及び弁論の全趣旨によると,訴外一男は,有限会社設立の当初に監査役に選任され,組織変更後も引続いて監査役に選任され,しかも有限会社設立当初から少なくとも係争の最終年度である昭和56年度までは,控訴人における監査役は訴外一男ただ一人であったことが認められる。してみると,もし訴外一男に使用人を兼務させる意図のもとに監査役に選任したことによって,その選任が無効であるとすれば,控訴人は有限会社として設立されて以後監査役を欠いていたことになるから,このような場合には監査役の欠缺という事態を避ける意味でも,使用人を兼務させる意図であったとみるのは相当でなく,監査役としての選任を有効と解するのが相当である。

したがって,控訴人の主張(四)も採用できない。

5  控訴人の主張(五)について

租税法律主義とは,租税の種類,納税義務者,課税標準,税率等のすべてが租税法規で定められることを要するとするもので,これによって行政庁の恣意的な徴税を抑制するとともに国民の利益が侵害されないようにするためのものであるから,法人所得の計算上ある支出が損金に算入されるか否かが租税法規に定められておれば,それに従うほかなく,その支出が商法上,あるいは会計諸則上利益処分とされるか否かとは関係がないことである。

しかして本件賞与は,法人税法35条,法人税法施行令71条1項3,4号,2項により損金に算入されないことになるから,租税法律主義に反することにはならない。

したがって,控訴人の主張(五)も理由がない。

三  してみると,本件各更正及び各決定が違法であるとする控訴人の主張はすべて理由がなく,控訴人の昭和54年度ないし昭和56年度における各申告所得金額(昭和56年度については修正申告にかかる所得金額)に本件賞与,すなわち原判決添付の別表(五)記載の賞与額を加算してなされた本件各更正及びこれに伴ってなされた本件各決定は適法であるというべきである。

よって,控訴人の本訴請求を棄却した原判決は相当であり,本件控訴は理由がないからこれを棄却し,控訴費用の負担につき民訴法95条本文,89条を適用して,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 森川憲明 裁判官 滝口功 裁判官 弘重一明)

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